自慢話の装備
「〇〇ちゃんは、お父さんがT大で、お母さんはM大なんだって〜」
塾からの帰り、娘が何気なく切り出した。
志村けんなら、「あんだって?」とききかえすところだ。娘は自転車をこぎながら
「△△くんもお父さんがT大なんだって。で、おじいちゃんが社長だから、将来、社長になるんだって〜」と続ける。
天下のT大生というのは、そんなにそこら中に居るものなんだろうか、と思ったが、中学受験塾の中の話ならさもありなん。
しばらく、黙って自転車をこいでいた娘がつまらなそうに口を開く。
「みんな、いいな〜。私は何も自慢出来ることがないよ。」
何という決定打。
私も夫も附属中高のある大学なので、娘は中学の偏差値表の下の方にあるその名前をみて、自らの親の学歴は皆に自慢できない。むしろ、口外すると、自分の立ち位置が下がると、判断しているのだ。
あんたたちじゃ塾内の自慢合戦の武器にならん、と彼女は言っているのだ。
当然、人間の価値は学歴だけではない。でも…容姿、職歴、特技、交際履歴。夫はともかく、私は何も娘の自慢装備にしてやれるものがない。
「そんなことないよ、あんたの、ひいひいひいお祖父さんは、武士がほんのちょっとしかいなかった江戸時代に、お城の家老だったんだからね。」
自分で勝負できないので、遠いと遠いご先祖様に加勢してもらう。
「えー、ちょっと遠くない?」と、いいつつく娘は何気に嬉しそう。
武士が当時いかに特権階級だったかを知っている中学受験生ならでは、だ。
娘は(なんとか)自慢話1を装備した。